東京地方裁判所 昭和61年(特わ)94号 判決
本籍
東京都渋谷区神宮前二丁目四九番地
住居
同神宮前二丁目二九番一-六〇二号
飲食店経営
吉田高明
(帰化前の氏名 権高明)
昭和二三年五月二七日生
右の者に対する所得税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官江川功出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
一 被告人を懲役一年二月及び罰金三七〇〇万円に処する。
二 右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
三 この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、東京都新宿区歌舞伎町一丁目二番一六号第一オスカービル二階外三か所において、ゲーム機を設置した喫茶店「クレイン」外三店の喫茶店、グームセンターを営むとともにゲーム機のリース業を営んでいたものであるが、自己の所得税を免れようと企て、右各店舗におけるゲーム機による収入を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五六年分の実際総所得金額が一億九〇一六万七三六〇あった(別紙(1)修正損益計算書参照)のにかかわらず、同五七年三月一五日、同区北新宿一丁目一九番三号所在の所轄淀橋税務署において、同税務署長に対し、同五六年分の総所得金額が四二三万五三五〇円でこれに対する所得税額が四九万五一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和六一年押第二九八号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億二七九一万六五〇〇円と右申告税額との差額一億二七四二万一四〇〇円(別紙(2)税額計算書参照)を免れたものである。
(証拠の標目)
一 被告人のの当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書八通
一 吉田健一、吉田吉信、金子行典、佐々木昇、柴田讓二、新倉武子及び麻田順志の検察官に対する各供述調書
一 収税官吏作成の次の各調査書
1 収入金額調査書
2 仕入金額調査書
3 水道光熱費調査書
4 旅費交通費調査書
5 通信費調査書
6 広告宣伝費調査書
7 接待交際費調査書
8 損害保険険料調査書
9 修繕費調査書
10 消耗品費調査書
11 減価償却費調査書
12 繰延資産償却費調査書
13 図書購読料調査書
14 事務費調査書
15 雑費調査書
16 給料賃金調査書
17 利子割引料調査書
18 地代家賃調査書
19 固定資産除却損調査書
20 配当収入調査書
21 譲渡収入調査書
22 譲渡原価調査書
一 検察官作成の捜査報告書二通
一 新宿区長作成の昭和六一年三月一一日付戸籍謄本
一 押収してある昭和五六年分の所得税の確定申告書一袋(昭和六一年押第二九八号の1)及び昭和五六年分収支明細書一袋(同押号の2)
(法令の適用)
被告人の所示所為は所得税法二三八条一項に該当するところ、所定の懲役刑と罰金刑を併科し、かつ、情状により同法二三八条二項を適用することとし、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年二月及び罰金三七〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、刑法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置することとし、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。
(量刑の事情)
被告人は、昭和四六年頃からゲーム機等のリースの仕事をするようになり、その後、同五二年九月頃、新宿区歌舞伎町所在の第一オスカービルの二階でゲーム機を備えた喫茶店(いわゆるゲーム喫茶店)を経営するようになってからは、ゲーム喫茶店やゲームセンターを経営するかたわらゲーム機のリース業を営んでいたものであるが、同五五、六年頃からテレビゲーム機の外に賭博用のポーカーゲーム機を設置しかつ扱うようになって収入が増加したことなどを切っ掛けに自己の所得税を免れようと企て、右事業にかかる収入の大部分(九〇パーセント以上)を除外するなどの方法により同五六年分の所得税をほ脱したものである。本件のほ脱税額は一億二七〇〇万円余と高額であり、ほ脱率も九九パーセント以上であること、除外した収入の大部分がポーカーゲーム機にかかる収入であること、被告人には、ゲーム機(スロットマシンなど)の設置やリースに関し、昭和四九年五月二九日に賭博罪で罰金八万円に、同五一年六月一〇日に常習賭博罪で懲役し一〇月(三年間執行猶予)に各処せられた前科があることなどを考えると、犯情は悪質であり、被告人の刑事責任は重いと言わなければならない。
しかし、本件は被告人が再び賭博用のグーム機に手を出して間もなくの昭和五六年分の所得税のほ脱の事案であり、被告人は、本件について査察を受けた同五七年九月以後は店舗を売却するなどしてゲーム機に係る営業をすべて廃上し、ラーメン屋、レストランなどの飲食店を経営する一方、同五九年一二月には日本国籍を取得し、内妻や子供を入籍、認知するなど身辺における変化も認められる上、捜査段階から事実を認めて今後は社会的批判を受けるようなことはしない旨誓い、飲食店については法人化し、経理処理につき税理士の細かな関与を予定しているなど反省していると認められること、更正処分を受けた後速やかに本税、重加算税、延滞税、地方税を納付していること、前科となる前記裁判から一〇年を経過していることなどの事情をも考慮すると、被告人を実刑に処するよりも、今一度自力更生の機会を与えることが相当であると考え、懲役刑についてはその執行を猶予することとした次第である。
(求刑 懲役一年二月及び罰金四〇〇〇万円)
よって、主文のとおり判決する。
(弁護人 神宮壽雄)
(裁判官 石山容示)
別紙(1) 修正損益計算書
権高明こと吉田高明
自 昭和56年1月1日
至 昭和56年12月31日
〈省略〉
別紙(2)
税額計算書(単位:円)
権高明こと吉田高明
自 昭和56年1月1日
至 昭和56年12月31日
〈省略〉